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22、林檎

祖龍の西近郊を街道に沿って城へと戻れば、
相変わらず頭痛のする様な人の多さに思わず足を止めた。
ただでさえ賑わう祖龍の城でも、この城西は特に込み合う場所だ。

「人多いよね…」

3歩後ろを従う長身の少年がため息交じりに呟く。
振り返れば、彼も足を止めて辟易した表情を浮かべていた。
どうやらTagliss少年も人込みは苦手らしい。

「港に出ようか?…あのあたりならもう少し人は少ないだろうから。」

軽く小首をかしげて提案すれば、彼はそうだねと頷いて、
南に向かって踵を返す。…全く正反対である。

「…Tagliss君、港はそっちじゃない…」

きょとん、とした表情で此方を見て首を傾げる相手に、
嫌な予感が迸る…まさかコイツも…

「済みません、ボク方向音痴で。」

えへへ、と笑って恥ずかしげに後頭部へと手を回す姿に、
俺はただ肩を落とした。なぜ俺の周りは方向音痴ばかりなのか…
嘆いた所で他人の方向音痴が治る訳でもない。

「……じゃあ、はぐれないようについておいで。」

ため息交じりに呟くと、彼は嬉しそうに笑って、
『ハーイ』と間延びした返事を寄越した。
自分が幼稚園の先生になったような気がするのはきっと気の所為だ…
――と、思いたい。

「あ、そうだ。Taglissって呼びにくいでしょ?タグで良いですよ。
 兄ちゃんとか妹とかにもずっとそう呼ばれてたし。」

何とか人だかりを擦り抜け、
港を見渡す小さな食事処に腰を据えた所で少年が言った。

「兄弟がいるんだな。…了解しました、では、タグさん…で良いかな?」

改めて互いに簡単な自己紹介を済ませる頃、丁度注文した料理が互いの前に並ぶ。
『いただきます』を言って手を合わせ、新たに出来た友人と共に遅い昼食を摂る。
戦士と言う先入観でがさつだと思っていた少年が存外、
行儀良く食事を進めて行くのを、俺は何だか不思議な光景でも見るように眺めた。
 
 
 
22、林檎
 
昼食を終えた後、交流の箱に嵌め込む印を交換してTagliss少年と別れた。
港の近くにある市場では、夕食の買い物をする人で賑わっている。

(今、昼を済ませたばかりなのに、もう夕飯の準備か…)

まるで世界の日照時間が酷く短い物の様な気がしてくるがそれは間違いで、
1日を短く感じるのは屹度、俺の朝が遅すぎる所為なのだろう。
夕暮れ、空があかねに染まるのを眺めれば、明日こそはと毎日思うのだが、
それできちんと起きれた試しは数度しかない。

(…今日は早く寝てみようかな…)

満腹で特に食べたい物も思い浮かばないのだが、
正しい時間の流れを習うように市場へと足を向けた。
一般的な時間に夕食の準備をしていつもより早く寝れば、
少しは早く起きれるかもしれない。
人で賑わう市場は、人だかりだけれど嫌いじゃなかった。
それぞれにとって特別な毎日を暮らす、日常と言う物語が此処にある。
俺にとっては何でもない1日も、誰かにとっては特別な1日で、
誰かにとっては何でもない1日が、俺にとって特別な1日だったりする。
常に変動的であり、普遍でもある。日常と言うのはそんなものだと思う。

「あれは…??」

りんごホンちゃん


ふと、青果市場の向こうに見知った人影が見えた。
柔和な笑みを湛えて、大きな手に赤い林檎を取った幼馴染。
右と左の手に果実を包み込み、吟味するように眺めている。

「何をしているんだ、ホンラン?」

近寄って行って声をかければ、彼は此方を振り向いて驚いた表情をした。
それから相変わらず優しげな笑顔を浮かべると、

「榧!…珍しいな、こんな時間に。――俺は見ての通り、買い物だよ。」

いちいち一言余計だと思う。
不満に思う所はあるが、態々それを言っても仕方ない。
手持無沙汰も手伝って、俺は相手の手元を覗き込んだ。

「林檎を買うのに何を悩んでいるんだ?」

友人の手に包まれた赤い果実を眺め、首を傾げる。
この赤は、綺麗だと思う。

「んー、どれが美味しいかなって思ってさ。」

榧、どう思う?と首をかしげて訊き返す幼馴染を少し見上げ、
俺は憮然として答えた。

「そんなの、 使い方次第だろう。 甘味が欲しければ全体的に赤いもので、
 酸味が欲しければ下の方が青い物だ。…どちらにしても蔓に張りがある物を選ぶ。」

「…そうなの?――榧ってどうでもいい事よく知ってるよね。」

本当に、いちいち一言余計である。

「蔓を見るのは大事なんだよ…ツヤとハリがあれば新鮮な証しだし、
 太ければ果実に養分を多く送れる訳だから、糖分は自ずと高くなって然りだ。」

むっとして講釈する俺に、はいはい、と返事を返して、
ホンランは右手に持った林檎を買い求めた。下の方がまだ青みを残した林檎だ。

「…どうせ夕飯の準備まだだろう?――まとめて作るよ、食べて行く?」

幼馴染の有難い申し出には二つ返事で頷いて、
では代わりにと荷物持ちを買って出る。
食後に林檎を切ろうねと、ホンランは笑って軽い方の荷物を俺に差し出した。
この温和を形にしたような友人が普段は弓を番えて、
あの血生臭い戦場に立っているなんて…何だか不思議な気がする。
昼間に浴びた怨霊の返り血も、夕飯のデザートになる林檎の色も、
同じ赤なのに随分な違いだ。
生活と戦闘の境界線もそんな物なのかと思うと、少し切なかった。

「なぁ、ホンラン…林檎、甘いのじゃなくて良かったのか?」

下げた袋でコロコロ踊る林檎の姿を思い出してふとした疑問を口にする。
ホンランは歩みを止めずにゆっくり俺を振り返ると、

「だって榧は甘いのより、少し酸っぱい林檎が好きだろう?」

当たり前のように笑ってそう言った。

「……………うん。」

どうして、なんて。
考えているのは大事な事だけれど、凄く無駄なのかもしれない。
ほら早く、と言って此方に手招きをする幼馴染の背を追い、早足に駆けだす。
そんな俺を包むように、丁度海に沈もうとする夕陽が、
辺りを燃える様な赤色に染めていた。

Comment

2008.11.22 Sat 00:22  |  いい話なんだが

ほんちゃんすっかりおさんどんに………

  • #-
  • ホンラン
  • URL

2008.11.22 Sat 02:39  |  いいお母さんでもあります

ゴハン作れる人ってスゴイなぁ。

…そしてボクには12人の血の繋がらない妹が(殴)

  • #-
  • Tagliss
  • URL

2008.11.25 Tue 10:41  |  いらっしゃいませ

ようこそ、駄文の世界へ…

ホンちゃん
だってご飯大事!

タグさん
そんな隠れ設定が!?

  • #-
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