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24、仲裁

スパァン、と矢を放つ音が響いた。人狼に似た姿の怨霊が地に伏す。
敵の姿が粒子になって世界へ還るのを、不思議な気持ちで眺めていた。
それが今までここに存在していた事を、
唯一証明する赤い血痕が地面を濡らしている。
消えた怨霊の遺した幾許かのコインと物品…
それらを複雑な思いで拾い集める俺の指先に冊子の様な物が触れた所で、
ホンランが声を上げた。

「あ、それじゃない?」

言われて、表紙を確かめる。
お世辞にも綺麗とは言えないがしっかりした字で名が記されている。

「…ウーフェイの日記で、間違いはないようだな。」

俺は答えてそれを友人に手渡した。
彼は短くウン、と答えて受け取ると、背の翼を広げた。

「それじゃ、城に戻ろうか?」

ホンランと俺は今、祖龍の城に住むエルフ族の乙女フォンセリカの依頼を受け、
行方知らずになった彼女の恋人、ウーフェイを探している。
大切な人が突然自分の前から姿を消すと言うのはとても辛くて悲しくて、
胸が潰れるほど苦しく、耐えがたい事だ。
それでも、どんなに辛くても悲しくても、それが死ぬ程と思えても、
やがて朝は訪れて、何とか足を踏ん張って、希望を見出して人は生きる。
…俺も、例外ではない。
もしその痛みや苦しみを俺が代わってやれるものなら代わりたい。
何とかしてやれる事なら何とかしたい。
けれどそれは彼女の門態で、俺の手で何か出来る事など、本当はないのだ。
ただ、その痛みを想像して、歯痒くて、何とかしてやりたくて、
だけれどどうしてやる事も出来ない自分の無力が悔しくて、こうして。
細い糸の様な手掛かりを、一つ一つ手繰るのである。

「…ヤ、…榧!――聞いてる?」

ふっと、友人の声で我に返った。
詫びの言葉を紡いで、相手の要件を尋ねる。

「だから、どうやらウーフェイさんは剣仙城にいるらしいんだよ。」

細い糸の繋がった先を、弓師が述べた。どうする?と首を傾げて俺に問う。
少しでも可能性があるのなら、それに賭けると俺は答えた。
 
 
 
 
24、仲裁

用事があると言ってウーフェイ探索を一時脱却したホンランを残して独り、
剣仙城に向かうべく麒麟の森を恐る恐る抜け行く。
極力怨霊を引っ掛けないよう、道沿いを慎重に進む。
この辺りにいる怨霊はアクティブな気質であり、
また俺のレベルで太刀打ちできる相手でもない。

「だから、こんな家で紛いの旅は良くないって言ってんだよ…」
「うっさいわね!!あたしは父さんを探してるの、家出じゃないわよ!!」

物音をたてない様に、静かに…と道を歩いている俺の耳に、
突如気風の良い啖呵が届く。何事かと思ってその方向へ足を向ければ、
揃ってよく似た面立ちの少年と少女が口論をしていた。
二人共に、さらりとした桧皮色の髪をしている。
少女はきりりと吊ったヘリオトロープ色の大きな瞳に豊かな感情を湛え、
少年に向かってまた小気味よく言葉を放った。

「大体、あんたまで出て来る事無かったじゃないのよ、ガラ!」

ひょろりとした長身に幼さの残る面立ちの少年は、困ったように溜息をつく。
どうやら何かしら、喧嘩の最中らしい。

「だから、俺はエスを心配して…はぁ――もういいよ。」

諦めたように踵を返した少年と目があった。
俺と同じく、頭に三対の羽を持エルフ族…彼もまた、精霊師なのか。
お互い、バツの悪い気分で目礼をする。

「何急に立ち止ってんのよ?…どうしたの?」

動きを止めた少年を訝しく思ったのか、
向こうにいた少女が此方に視線を向けた。
ホンランと同じ、頭に一対の羽を持つエルフ族の女性。
彼女はどうやら弓師であるらしい。

「…こんにちは、――良いお天気ですね?」

――残念ながら、雨である。

(どうしたものか…)

何とも言えずに取り敢えず挨拶をしたものの、酷く気まずい。
精霊師の少年も、返答に困ったように乾いた笑いを浮かべている。

「雨、好きなんですか?」

不意に、弓師の女性が声を発した。
きりりとした目元同様、良く響く凛とした声だった。
少年背後から腰をかがめるようにひょこっと顔を出し、首を傾げる。

「ええ…嫌いではないです。
 雨も雪も、同じ水ならどうして愛でずにおれましょう?」

どうやら物怖じしない気質なのか、女性は俺の傍まで来て、
右手を差し出しながら言葉を続けた。

「初めまして、あたしはエスティオーネ。
 雪はロマンチックだけど、雨だと髪がはねるから困るわ。」

俺は彼女の右手をそっと撮り、軽く膝をついて首を垂れると、
弓を弾く者にしては華奢で美しいその手を額まで持ち上げ挨拶を返す。

「初めまして、愛らしい姫君。俺は榧と申します、ご覧の通りの精霊師です。」
「うわー…真似できねぇ……」

若い男性の小声が届いた。エスティオーネ嬢はクスッ、と笑うと、
背後で困ったように肩をすくめる少年へと首を向けた。

「あんたも見習いなさいよ。…それに、挨拶くらいしたらどうなの?
 お姉ちゃん、そんな弟に育てた覚えはありません!」

どうやらこの面立ちの似通った二人は姉弟らしい。

「育てれた覚えなんかねえよ、それに姉って言ったって俺達双子だし…」

しかも、双子。それは顔立ちが似て然り、である。
少年は尚も何かを口籠りながらも、彼の姉君に寄り添って頭を下げた。

「俺はガラントロス。エスの双子の弟で、精霊師…です。」

言葉づかいを気にしながらも丁寧に名乗ってくれる少年を向き直ると、
俺はエスティオーネ嬢の手をそっと返して立ち上がった。
右手を胸に当て、腰を折る。

「初めまして、榧と申します。…ところで、お二人は何をなさっていたのです?」

一頻りの挨拶を済ませた所で、並んで立つ姉弟へと問うた。
彼らは互いに顔を見合わせると、
思い出したように表情を険しくして此方を見据える。

「きいてくれる、ガラったら…!」・「きいて下さい、エスと言ったら…!」

これまた綺麗に言葉が被った。
凄い剣幕で二人に詰め寄られ、俺は思わず一歩後退さる。

「ええと…とても、仲が良いんですね。」

そして思ったままを告げた。
姉弟はふたたび顔を見合わせると、可愛らしいほどの膨れっ面になって

「どこが!!」・「全っ然!!」

また綺麗に言葉を被せながら同じ意味の事を述べた。
これを「仲良し」と呼ばずに何と呼ぶのだろう。
その微笑ましさが何だか嬉しくなって、俺は思わず笑った。

「そうして言い合いが出来るのは、とても良い事だと思いますよ?」

すると二人はまた顔を見合わせ、どちらともなく、そうかもねと呟いた。

「こんな雨の中喧嘩なんてするのは止めて、仲直りなさいませ。」

更に畳掛けて喧嘩の火種をもみ消す努力などしてみる。

「そうだなぁ…ここはひとつ…」
「榧さんに免じて許してあげるわ、ガラ。」

先に何かを言おうとしたガラントロス少年の言葉を取るように、
エスティオーネ嬢がキッパリと言い切った。

「なっ…それは俺の台詞…!!!」

このままではまた喧嘩が始まりそうである。

「あ、あの…剣仙城へ向かう道は、この方角で間違いないでしょうか?」

俺は話の矛先を変えるべく、全く持って関係のない
(しかも分かり切っていて聞く必要もない)
疑問を二人に投げかけた。これでおさまってくれればいいのだが…

「え?…ああ、はい。間違ってないですよ。」

質問には、ガラントロス少年が答えてくれた。
エスティオーネ嬢もふと此方を向き、不思議そうに尋ねて来る。

「榧さん、剣仙城に用事があるんだ?」

「ええ、ちょっとお使い事です。」

俺は剣仙城に向かう事になった経緯を簡単に二人へ説明した。
姉弟は頷きながら俺の話を聞いてくれた後で、

「それなら…早く着いた方が良いですよね?」

何か話し合う素振りを見せた後で、パーティーに誘われる。

「猛き翼の神鳥よ、我が盟友にその加護を…ファルコンパワー!」

弓師の姫が、凛とした声で詠唱をした。
天に向かって伸ばした腕の向こうに、輝く神鳥が浮かんで消える。

「これで少し早く動けるし、敵を引っかけても避けやすくなりますよ♪」

神鳥の放った光が俺の全身を包んだ。
言われてみれば、身が軽くなったような気がする。
続けてガラントロス少年も、
プロテクト・マジックシールドなど幾つかの詠唱を俺に与えてくれる。

「同じ精霊師ですけど…少しでも旅が安全になりますように。」

ね、と小首を傾げながら微笑む二人はやはり良く似通っていて、
そのどちらにも共通する優しくて天真爛漫な気質が、
とても愛らしいと思えた。

「どうも有難うございます。…では、お二人も気を付けて。
 くれぐれも、往来で喧嘩などなさいません様に…ね。」

俺は双子のエルフに礼を述べるとまた挨拶をし、そっとパーティを抜けた。
二人に向けて軽く手を振った後、翼を広げて飛びあがる。
思いがけない喧嘩の仲裁だったが、お蔭で良い触れ合いが出来た。

(また会えたらいいな…次は、喧嘩していない時に。)

軽い身体で抜ける雨の森の遥か向こうに、
剣の形をした石門が見えて来る。
師匠の故郷…人間族の最も栄える街、剣仙城がすぐ近くに迫っていた。
 
 

Comment

2009.01.31 Sat 18:46  |  

祝☆帰ってきた榧ストーリー♡
やっぱり、この透明感ある美しい言葉の数々。
癒し以外の何物でもないですわ。
脳内が浄化されるぅ><b
ありがとう榧さんっ!

  • #-
  • とぅる
  • URL

2009.02.02 Mon 03:53  |  きゃ―――ヽ(*@∀@)ノ

エスガラが榧さんのお話に――――――o(*≧▽≦)o″))
しかもなんて現実味のある姉弟喧嘩www
特にどんどんヒートアップしていくエスと面倒臭くなっていく(笑)ガラの対比は、『どこかで覗き見したの!?』と疑うくらいww
これだけ生き生きと二人を動かしてくれる榧さんの筆力には、ただただ脱帽です。

またどこかで喧嘩してたら、止めてあげて下さいね(=´▽`)ゞ
(嫌です)

  • #-
  • エス
  • URL

2009.02.03 Tue 12:16  |  いらっしゃいませ^^

ようこそ、駄文の世界へ…

とぅるさん
有難うございます><
少しでも癒しになれば幸いです!
またぼちぼち進めて行きますので、ご愛読の程宜しくお願いします!

エスさん
気に入って頂けて良かった><
元気なエスさんガラくんを動かすのはとても楽しかったです。
出来れば次は喧嘩してない時に会いたいですww

  • #-
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