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29、魔法職泣かせ

傘と荷物を同時に持って歩くのが億劫だった事に、
手が空いてから気がついた。

「荷物、持つよ?…大丈夫?」

少年戦士はまるで女の子か小さい子供に対するそれのように、
傘を斜めに差し掛けて、左肩を濡らしながら尋ねてくる。
その腕を垂直にしようと押し返しながら、俺は首を横に振った。

「否、大丈夫。気持ちだけ有難う…それより、君の肩が濡れてますよ?」
「あ…ウン、平気!――ありがとう、カヤさん。」

礼を言うのは余程此方の方で、優しいのは自分の癖に、
ぱっと笑顔になって応える相手を目端に捕えて思わず舌打ちする。

「え??え、…何、ボク何か悪いコトした??」

どうやら微弱なその音は彼の耳に届いて仕舞ったらしく、
慌てた様子を見せるTaglissから視線を逸らして短く『別に』、とだけ答えた。
已然として止む様子のない雨の中、、大半は相手の話を聞き流す形で
あっという間に1時間を過ごし、小手を受け取りに向かう。

「ハイ、綺麗なもんでしょ?
 …あなたも元気になったようだわね。小手と一緒に修繕でもしたの??」

裁縫師の台詞に苦笑で応え、傍らで相変わらず嫌な顔一つせず、
傘を差し掛け続ける友人を見上げた。別に元気がなかったのとは違うが、
彼に出会った事が気晴らしになったのかもしれない。

「カヤさん、元気じゃなかったの?」

視線に気づいて笑顔で首を傾げ、此方を窺う相手を直視できないまま
遠くの方向に視線をずらすと、

「――何でもない。」

それだけ答える。

「そっか。」

にこり、と。
始終嬉しそうなまま彼は言って、それ以上何も詮索してこなかった。
心根の優しい人は、見ていて苛々する。不器用で、無防備な心と言うのは。
思わず平和な笑顔を殴りそうになる手を止めた。
結局Taglissは最後まで俺の傘持ちを務めると、貸すと差し出した傘も受け取らず、
相変わらずの俊足で雨の中を駆けて行った。
…何度か此方を振り返り、楽しそうに大きく手を振りながら。
絶対的に寄せられる見えないものに答える術を持たない俺は、
彼の姿が見えなくなるまでただ其処で見送った。 
 
 
 
29、魔法職泣かせ
 
昨日の雨が嘘のように晴れ渡っている。
俺は出掛ける準備を済ませると、時間きっかりに外へ出た。
ファッションリーダーと自称する謎の女性、
ビスカリの依頼で湖岸の村に向かう為だ。

「おはよう、カヤさん!」

宿を出た所で、元気な声が耳を打つ。

「タグさん…お早うございます。」

視線を向ければ既に一仕事終えた様子の少年戦士、Taglissが手を振っていた。
現在時刻、午前10時。俺にしては、早起き。

「朝から元気ですね…今まで何してた?」
「えーと、朝6時に起きてご飯食べた後、
 衛兵の人に頼まれた怨霊退治2件終わらせてきた。」

俺にとっては素敵な睡眠時間である時刻から活動していたらしい
相手の笑顔が無駄に爽やかで、その爽やかさに腹が立って思わず、
――ベコン、と彼の頭を小突いた。

「痛いよ、カヤさん…っ!何でいっつも…?!」
「あ…悪い、つい。――条件反射で。」
「何の?!?!」

涙目で訴えて来る相手の怒りを我ながら上手に作った笑顔で躱しながら、
少し腰を屈めて僅か長身の相手を覗き込む。

「済まなかった。――それより、早く行こう?」

Taglissはぐっと言葉に詰まって赤くなると、あらぬ方向を向いて小さく頷いた。
…彼の赤面症はなかなか使える。

「湖岸の村ってどんなトコ?」

橋を渡って目的の場所へと向かう道すがら、少年が聞いて来る。
良い所だよと短く答えて先を急いだ。
川の水が流れ込む大きな湖の畔に、その村はある。
以前に一度訪れた時は夜中で、天文学者ヨシュア翁の世話になった。

(兄さん…元気かな…?)

不意に、ハムスターを連れた短パンの青年を思い起こす。
なんとも言えない愛くるしさを持った、俺と同じ精霊師。
…今頃、どうしているだろう。あれからそんなに月日が流れた訳でもないのに、
何だか酷く昔の事のように懐かしい。

「カーヤさーーーん!こっちーーー!!」

と、村に到着するなり物珍しそうにその辺りをうろうろしていた友人が、
湖の上に建てられた小屋の方角から大きな声を上げた。

「――喧しい。」

俺は少年の元へ向かうと、無駄に元気な彼を諭す。
Taglissはてへへ、と照れた風に笑って、傍にいる住人らしき人物を示した。

「この人、お饅頭屋さんだって。」

どうやら仕事を手伝う気持ちはあるらしい。
友人に礼を述べると、示された人物へと歩み寄る。
少々風変りな様相をしたその男性は、容姿の事を気にしているのか、
俺の視線に気づいてムッとした表情を浮かべた。

「フンッ、気位の高いエルフが…どうせ儂を笑いに来たんだろう?!」

まだ何も言わない内から随分なご挨拶である。
言い返したいのをぐっと我慢して俺は笑顔を作った。
こんな時お手本にするのはいつも、記憶の引出しにある幼馴染の柔和な表情だ。

「笑うだなんて…滅相もない、俺はただ…貴方の作る饅頭が
 天下一品と噂に聞いて訪ねて来たまでです…。」

わざと淋しそうにして見せながら胡麻を擂る。それで少しは気を良くしたらしく、
相手はフンッと首を叛けながらも照れたように顔を赤らめた。
何故だかその隣で此方を見ている友人も赤くなっている。
彼の赤面症はどうやら、他人にもうつるらしい。

「ま、まぁいい…そこまで言うなら。だが…儂は今、仕事が手につかないんだ。
 可愛がってたクンブラーに逃げられてな。そいつを連れ戻してくれたら、
 お前に饅頭を分けてやろうじゃないか。どうだ?――やるか?」

交換条件と言う事らしいがこの場合、俺に拒否権はない。
大きな溜息交じりに渋々頷くしかなかった。

「…アレか。」
「うっわーーー、かーわいいーーー!」

湖岸の村を出て少し山際に寄った辺り。
怨霊の群れに紛れ、鹿に似たその白い生き物はいた。
Taglissは動物好きらしく、件の生物を見るや否や喜声をあげて駆け寄って行く。
それに気づいたクンブラーは慌てて逃げ出した。随分素早い。
呼び掛けて此方へ来るようならば飼い主も苦労はしないだろう。

(とすると、どうやって捕えたものか…)

少し考えて、試しに精霊術バイントを投げてみる。残念ながら効果はない。
スリーピングを使っても同等だ。どうやら奴に術は無効らしい。

「悠長に罠を仕掛けている暇はないし…追い立てて捕まえるか。」

きっちりした上着を脱ぐと畳んで近くの切り株に置き、首元のネクタイを緩める。
術が聞かないと分かっていて頼んだのなら、あの饅頭屋も人が悪い。

「追い掛けてどうするの??――縄とかないよ?」

それまでクンブラーに必死だったTaglissが不意に首を傾げた。

「殴るなりして意識を取るしかないだろうな、スマートじゃないが…。」
「そんなっ!!――そんなの可哀想だよっ!!!」
「…むしろ饅頭如きの為に鹿追って走らされる俺が可哀想だよ…。」

台詞の全てに不満を込めて答える。少年は困ったような表情を浮かべると、
考える仕草の後でボソボソと呟いた。

「ここまで追いやって連れて来るくらいならボクが…」
「そう来なくてはね。」

期待していた台詞に思わずニンマリと笑みが漏れる。
少年戦士は騙された、と言わんばかりの渋面を作ると、
仕方なさそうに白い鹿の背後へと回った。
遉、伊達に戦士を名乗っている訳ではないらしい。
素早いクンブラーがTaglissに追いやられて此方に向かって来る。
その姿は何かを彷彿させた…ほら、あれだ。…牧羊犬と羊。

「カヤさん、避けて!!――突っ込んでくよ!!」

勢いよく走って来る2匹…もとい、1人と1匹。
坂道を降りた所で牧羊犬…ではなく少年戦士は体を翻して動きを止めた。
クンブラーは己の勢いを止める事が出来ず、真っ直ぐ此方に突進してくる!
俺は大きく息を吸うと、間合いを計って腰を落とした。じっと構える。

「カヤさんっ!!!」

回し蹴り!
ぶつかる寸前。

俺は身体を捻って脚を振り上げ、白い鹿の胸元にあたる部分を
一応手加減しながら蹴り上げた。

――ドスン。

と音を立てて、クンブラーは地面に倒れた。ざっとこんな物だが、
そもそもひ弱な精霊師の俺に力仕事をさせる事が何かの間違いだ。
ふぅ、と小さく息をつくと、曲ったネクタイを直して手を払う。

「…カヤさん…おみごと、デスネ…あは……」

ふと顔を上げた先には、
軽く青ざめて乾いた笑みを浮かべる友人の姿があった。
 
 

Comment

2009.03.13 Fri 10:05  |  ヾ(*'-'*)

いつもこっそり読ませて頂いていた時は
完全にひとつの物語として楽しませて
頂いておりましたが^^

ああしてお三方にお逢いしてみると
皆さんの特徴を捉えた上で
また別にキャラ立てされてるんだなぁと
改めて物語に引きこまれております^^b
>「そもそもひ弱な精霊師の俺に力仕事をさせる事が何かの間違いだ。」
アハ@。@
しかし最後の一文がどうつながるのかドキドキw

れいの詩を~想ひ藤~としてUpさせていただきましたぁ><
※失礼ながらリンクお願いしてもよろしいでしょうか(。・人・`。))

  • #IOwrre66
  • an(アン)
  • URL
  • Edit

2009.03.14 Sat 04:37  |  Σ(゚Д゚)

榧さんがぁ 榧さんがぁ・・・・・こわいよぉ(つД`)

あ・・・・・・いつもだっ・・・・・ゴホゴホ

えと・・・・元気で何より!!(`・ω・´)ノ (ナイスフォローだ!きょちゃ!!)

  • #-
  • Kyo
  • URL

2009.03.15 Sun 00:59  |  きっと

そのひ弱な人に日々頭をどつかれ続けて、こんな感じになったのだと思います先生。

  • #-
  • Tagliss
  • URL

2009.03.15 Sun 14:32  |  魔法職泣か・・・せ・・・?

榧さん泣いてないしっ∑( ̄□ ̄;)

どっちかと言えばタグさんのが蒼白だしっ∑( ̄□ ̄;)

クンブラーがウサギだったらどうなってたんだろう(^m^)ウフフw

  • #dS5vVngc
  • れもん
  • URL
  • Edit

2009.03.15 Sun 18:45  |  いらっしゃいませ

ようこそ、駄文の世界へ…。

アンさん
嗚呼、いつも読んで下さっていたのですね、嬉しいです^^
楽しんで頂けるのが何よりの励みになります。
ひ弱ですよ、俺は?――特化ではなくバランス精霊ですよ?^^^^
詩文、後ほど見にゆきます^^有難うございます!
リンクは勿論OKです、此方からも宜しくお願い致します。

Kyoさん
怖くない怖くない。おいでおいでー…(手招)
…いつも、なんですか??――何か言おうとしました??
Kyoさんもあまり体調崩さず、元気にお過ごしくださいませ^^

タグさん
ん??…何かな??何か文句があるのかな??(微笑)

れもんさん
酷いなぁ、まぁ、泣きはしませんが苦労はしていますよ?
タグさんはいつも赤くなったりあゃくなったりしているので気にしない方向で。
クンブラーがうさぎだったら…?

決まっているじゃないですか、依頼放棄。もしくは――
饅頭屋をボコるなりオトすなり、精神的に追い詰めるなりして何とかします^^

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