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42、男子たるもの

木々の合間を縫って強い風が吹き抜ける。
そろそろ日没も近い。軽く身震いをすれば、
それまで遺跡で遊んでいたTaglissがおりてきて首を傾げた。

「榧さん、寒いなら僕の上着…」
「いや、いい!大丈夫!脱ぐな!」

ハードレザーの上着から腕を抜こうとする相手に制止の声をかける。
あれを脱いだら彼は確実に上半裸だ。

「…見てる方が寒い」

――色々な意味で……
と心の中でだけ付け加えて一歩後退されば、斜面に足を取られて上体が軽く傾く。

「そうだぞ、タグ。自分の体調管理もままならない癖に偉そうなヤツに気遣いなど必要ない」

トンッ、と…倒れかけた俺の背中を薄い胸板で支えて厭味を言うのは他ならぬValiだ。
意地の悪い物言いにムッとして見せても気にする様子はない。
無遠慮にこちらの肩を掴んでくるりと向かい合いにする。

「あの、お兄ちゃん…榧さん…」

辺りを包む険呑な雰囲気に、少年戦士が困ったような声を漏らした。

「冷えやすい体質なら、それなりの準備をしておくべきだろう?」

だが、魔導師は弟の声などお構いなしに厭味を続ける。
俺は正面切って相手の赤い瞳をじっと見据えた。

「大体、年下に心配をかけるなど、上に立つ者として……」

尚もブツブツと小言を垂れるValiの行動に、しかし思わず噴き出しかける。
何故なら彼は、そうして文句を言いつつも自分の首に巻いていたネッカチーフをするりと解いて、
俺の首元に巻き付けたのである。神経質そうな指先が器用にそれを結ぶ。
気難しいふりをして、お人よしなのはその弟と大差ない。

「…ハイ、以後気をつけます…」

俺は笑い出したいのを何とか堪えて素直に頷く。
Valiは眉根を寄せたしかめつらのままで鼻をならすと、

「ああ、そうしてくれ」

とだけ呟いて踵を返した。
いつの間にやら隣にならんだTaglissが誇らしげな表情で、そんな兄の背中を眺めている。
二人の姿を交互に見遣り、俺は小さく微笑った。

 

42、男子たるもの

血の気の多い兄弟と別れ、夕暮れの道を行く。
遺跡を抜けた木陰を通り抜ける際、ふと懐かしい思いに捕らわれ足を止めた。

(これは…師匠と同じ…)

爽やかで仄かに甘い栴檀の残りがそこにある。
けれど、その香を放つ樹木は辺りに見当たらない。

(気の所為…?全く、これだから夕暮れ時は…)

自分の感傷を時候になすりつけて溜息をつくと、俺は再び祖龍の城へと歩き出した。

「ん……?」

人でごった返すこの城で最も歩きやすいはずの北門を潜る。
通常ならば喧騒とは無縁な地区なのに、今日は何だか賑わしい。
不思議に思って人垣を窺えば、どうやら古書の市が立っているようだった。

「あ…コレ、前から欲しかった…こっちも…嗚呼、この本…」

大人になって良かったと思うのは、
自ら稼いだ金を自分采配で好きな事に注ぎ込むこんな時である。
たっぷり無駄遣いをしてご機嫌な俺は、両手に余る本の山を抱えてよろよろと歩きだした。

(うーん、流石に買いすぎたかな…)

持てない重さではないが、抱えて歩くには嵩張って視界が悪い。

「おっと!」
「あ、すみませ……」

案の定、少し歩いただけで人にぶつかる。
重ねた本が揺らいでバランスを崩す俺を支えるように、ふと力強い腕が背に回る。

「ああ、危なかったな、お嬢さん。…大丈夫かな?」
「うわっ!」

半ば抱き寄せられる格好で助けられ、思わず相手を突き飛ばす。
バサバサといくつかの本が地面に零れた。

「おやおや、お転婆なお嬢さ……と思ったら、君は…」
「あ……貴方は…」

失礼な態度にも怒ることなく、笑顔のままこちらを見ているのは、
いつぞや安息の丘辺りで出会った赤い軍服の戦士……

「玲紋さん……」
「やあ、榧君!覚えていてくれたんだな、嬉しいよ。」
「其方こそ……よく覚えていましたね。」

精悍な戦士は甘いマスクに笑みを湛えて俺が取り落とした本を拾い上げる。

「いやあ、ずいぶん華奢だからどこのお嬢さんかと思ったが…忘れるもんか、君のような美人を。」
「…………あー……突き飛ばしたりして済みません…」

返す言葉も見つからない。
拾った本をなかなか此方へ寄越そうとしない相手を訝しく思いつつ、
とりあえずは詫びの言葉を述べる。
それにしても、前回に続いて今回も『お嬢さん』呼ばわりされるとは。
戦士に比べればひ弱なのは否めないが……やや納得いかない。

「この間はありがとう。お礼と言っては何だが、これは私が運ぼう。
 もう少し、君と話をしていたいしな。……さあ、宿はどこかな?」

先程のValiと言いこの玲紋氏と言い、どこまで人を女性や子供のように扱うつもりなのか。
先に歩き出し、道を訪ねる戦士に渋々帰路を示す。

「あ、榧!」

と、急に正面から呼び声が届いた。見れば向こうにひょろ長い人影がある。
――ホンランだ。

「何持ってるの、本?…もー、またこんなに…。ホント、無駄遣いしてー…」

幼馴染は駆けて来るなりそう言うと、俺の手元に残った数冊の書物を奪おうとする。
…いた、ここにもう一人……俺を究極に子供扱いする人物が……

「ん?この愛らしい青年は君の知り合いかな?」

不意に傍らの戦士が声を発する。

「え?…ああ、どうも…ええと……」

それで初めて玲紋氏の存在に気付いたホンランガ、困った表情で俺を眺めた。
そして腰をかがめると、

(なんでこの人、榧の荷物持ってくれてるの?…脅したりしてないだろうね?)

小声で耳打ちしてきた。

「失礼な。この人は玲紋さん。以前けがをしていたときに治療をしたことがあって、
 今日はお礼にとこうして荷物を運んで下さっているだけだ。」

憤慨して怒鳴れば、拍子抜けしたように弓師は苦笑を浮かべる。
そんな遣り取りを不思議そうに眺めていた戦士が首を傾げて言葉を挟んだ。

「??……何が失礼なのかな?――私は今紹介に与った通りのものだが、君は?
 ああ、もしかして……榧君のお兄さん?」
「や、違います。断じて。」

間髪置かずに即答したホンランの横顔をちらりと見遣る。
幼馴染は申し訳なさそうに頭を下げると玲紋さんに向かって両手を差し出した。

「俺は榧の幼馴染で、弓師のホンランと言います。
 榧がご迷惑をおかけしたようで…その荷物、引き受けま……」

挨拶をするホンランの言葉が終らぬうちに、
にっこりと魅惑的な笑みを浮かべた戦士は本を軽々と片腕に持ち直し、
差し出された腕を掴むと自分の方へグッと引いた。

「よろしく、ホンラン君。」

いきなり抱擁されて、幼馴染は硬直している。まあ、無理もない。
腕を差し出したのは本を受け取るためであって、そう言う意味ではなかっただろうから。

(か、榧、この人ダイジョウブ!?)

解放され、硬直から立ち直ったホンランがわたわたと俺に尋ねてくる。

(ちょっとアレだけど、悪人じゃないことだけは確かだ、安心しろ。)

戦士に聞こえないよう、小声で答えた。
事情を知らない玲紋氏は相変わらずにこやかに此方を眺めている。

「あまり遅くならないうちに戻りたい。ホンラン、またな?」
「ああ、うん……」

俺はホンランの手から自分の荷物を取り返すと、

「では、そこまでお願いします、玲紋さん。」
「よしきた。…ではまたね、ホンラン君!」

困ったように立ち尽くす幼馴染を残して、赤い軍服の戦士と共に宿への道を辿った。
 
 

Comment

2009.10.26 Mon 21:34  |  わはは

Valiはいい奴らしいw
しかもツンデr

  • #-
  • ホンラン
  • URL

2009.10.31 Sat 20:15  |  おおっとw

こんな処でヤツがwww
で、「ちょっとアレ」の「アレ」って?^^^^^^^^

Valiにーさんイイ!やっぱイイ!!

  • #dS5vVngc
  • れもん
  • URL
  • Edit

2012.02.13 Mon 22:39  |  遅くなりましたが

様こそ、駄文の世界へ……

>ホンちゃん 
兄貴は基本イイヤツだと思うんだ。
しかもツン・・・・・(笑)

>れもんさん 
ちょっとアレのアレはアレですよ(笑)
意外に人気な兄貴(笑)

  • #-
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