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44、瞬殺

大量買いした本の山を、思わぬところで再開した赤い軍服の戦士、
玲紋さんに運んで頂いた俺は、予ての約束通り彼と石の交換をした。
また、労働の礼として茶の一服でもと勧めた事から、それは起きた。
暖かな茶を淹れて、差し出した時である。

「しかし、榧君は本当に華奢だな。……この細い指先……、
法剣を握らせるのも忍ぶないほどだな」

相手構わず口説くのが趣味なのか、
湯飲みではなく俺の手を掴んで目線の高さまで持ち上げ、彼はそう呟いた。
そのまま人の手に唇を寄せようとするものだから、さすがに驚いて振り払う。
いくら相手が美形でも、それは勘弁してほしい。
……逆ならまだしも。

「何度も申し上げますが、俺は女性じゃありませんし、細くもない。……貴方を基準にしないでください」

思わず眉を吊り上げて文句を言えば、彼は楽しげに笑って右腕を差し出した。

「そうかな?……では、ひとつ勝負をしようか、腕相撲で」

とん、とテーブルに肘をつき、玲紋さんは艶やかな笑みを浮かべる。
シャツ越しにもしっかりした腕を見るだけでとても敵う気がしなかったが、俺も男だ。
ここまできて後には退けない。

「いいですよ、受けて立ちましょう……?」

結果としては、散々からかわれた上の惨敗だった訳だが。


44、瞬殺


呆れたように溜め息をついて、ホンランが苦笑いを浮かべる。

「何でそんな無謀な勝負を……いや、榧が無謀なのはいつもか……」

相変わらず余計な一言を付け足しつつ、先程まで俺が腰かけていた椅子に座った。

「で、何で俺が……」

さらにブツブツ文句をいいながらも、ハードローブの袖を捲って右腕をテーブルにつく。

「いいじゃないか、ホンラン君。……榧君の仇がとれるかな?」

楽しげなのは、先程俺をコテンパンにして上機嫌な玲紋さんだ。
俺に勝てたからって他の誰にでも勝てる証しにはならない。
笑っていられるのも今のうちだと、俺は内心でほくそ笑んだ。

「では、はじめようか?」

玲紋さんが、余裕の笑みで右腕を差し出す。
仕方なさげな表情で、ホンランはその手を取った。
ぐっと力強く組まれた二人の手に、俺が手を重ね、スタートの合図を送る。

「レディ……、ゴー!」

声と同時に自分の手を引いた瞬間である。

「うぉ……ッ?」

短い悲鳴が響いた。

――ゴッ……

と、テーブルを叩くような音と同時に。
それは一瞬にして、ホンランの腕が玲紋さんの腕を倒した音であった。

「あ、勝った?」

驚いたように、ホンランが呟く。
それよりもっと驚いた様子なのは、瞬時に打ち負かされた屈強な戦士だ。

「なっ……!」

あんぐりと口を開けて言葉を失っている。
しかし、俺にとっては想定内の出来事であった。
何故なら、ホンランは子供のころから、俺を抱えて走る事しばしばだったからだ。
師匠が出て行って、俺の世話を任されたホンランは、
外に出かけてアクティブをひっかける俺を、
抱えて走り逃げるのが仕事のようなものだった。
それで無駄に腕力ばかり鍛えられ、
また、弓師になってからは弦を弾くのに背筋や腕力がまた鍛えられ、
本人も気づかぬうちに、
見た目よりもずっと強い右腕が出来上がっていたのである。

「も、もう一度……!」

玲紋さんが悔しげに右腕を差し出す。

「へ?……ああ、はい」

見ているだけならこんなに楽しいものはない。
何度やっても結果は同じで、二度目も三度目もホンランの圧勝。
流石に戦士のプライドが傷ついたのか、玲紋さんの表情が険しくなる。
いつもの柔和な表情もいいが、
玲紋さんの場合は険しい表情の方が帰って男前に見えるのは気のせいか。
しかし、そんな男前がしょんぼりしているのはさすがに哀れな気がして、
俺は一言口添えをすることにした。

「今度は左腕でやってみてはいかがです?」

「あ、ああ……そうだな……」

動揺した様子のレイモンさんが、右腕を下げて左腕を差し出した。
合わせて、ホンランも左手で組む。

「レディー、ゴー!」

俺が手を放した瞬間である。

――ゴッ!

今度は一瞬にしてホンランが倒される。

「あー、負けたかあ……」

残念そうに呟いた弓師と自分の腕を見比べて、
きょとんとした表情を浮かべているのは玲紋さんだ。
どういう事か分からない様子の二人が面白くて、俺は思わず笑った。
種明かしをするのはもったいないので、この理由は俺だけの秘密にしておこう。
結果として引き分けに落ち着いて、俺たちは温くなった茶を喉に通した。

「いや、楽しかったよ、またな?」

すっかり外が暗くなって一段落したころ、
雑談にすっかり心を解された様子の玲紋さんが俺の家を出て行く。
ホンランと一緒にその背中を見送る俺の気持ちも、珍しく穏やかであった。








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