15、祖龍強襲

こんなに沢山の人が、一体何処から湧いて出るのだろう。
先に進めないほど人が多い。
祖龍の城は大きな街だと聞いてはいたが、とんでもない規模だ。

(…気分が悪くなってきた…。)

くらくらする頭を押さえてゆっくりと城門へ向かう。こんな事なら態々西門に回らず、
素直にもう少し人の少ない南門から入るんだった。…後悔しても遅い。

(ホンランに迎えを頼もうか…でも、俺の場所なんて分かるのか…?)

人が多いだけなら良いが、城の周囲には怨霊までが群れを成している。
這う這うの態で城門の石畳に足を掛けた時だった。

(うわっ…?!)

バフン、と何か粉の様な物が顔にかかる。
胃を抑え付ける様な吐き気と、嫌な悪寒が背を抜けて眩暈がした。
粉を受けた目元がしばしばして視界が霞む。何とか捕らえた視界の先で、
無駄に頭部の膨張した怨霊が、気味の悪い笑みを浮かべている。

(仕舞った、引っかけた…!)

怨霊の全てが悪しきものであるわけでも、仇を成すものである訳でもない。
だが、中にはどうしても他の生物と反目する輩がいて、
己と異なる生態を認識した時点で見境なく襲いかかってくる。

「榧は見かけによらず粗忽者だからな…もう少し周りに警戒しろよ?」

何時だったか、矢張り何気なく歩いていて、
棍棒を振りまわす二足歩行の巨大な牛を引っかけた事があった。

(あの時も、師匠に助けて貰ってそう言われたんだっけ…)

それなりに成長したつもりだが、迂闊だった。――我ながら情けない。
ふらつく身体を何とか奮い立たせて臨戦態勢を整える。
そうしている間にも怨霊の攻撃は続いている。

「20分後に敵の――――――っ!」

喧噪のなかで、誰かの声が聞こえたように思った。野太く、力強い声。
周囲の往来が慌ただしくなる。あちこちで上がる声が雑音になって耳に届く。

「そんな所でぼーっとしてちゃ、危ないわよ?」

雑音で潰れそうになる耳元に、ふと…快活で明るく、澄んだ声が響いた。
青い光が俺を包み、身体が軽くなる。続いて、バリバリっ―――
…と雷の様な音と閃光が走り、俺に攻撃を仕掛けていた怨霊が消えた。
驚いて振り返るとそこには…淡い金の髪を項の横で束ねて巻き、
くっきりとした大きなラベンダー色の瞳で微笑む、美しい女性が立っていた…。

15、祖龍強襲

ふくよかな胸元は淡い色のチュールトップスで飾られ、すらりとした長い足を
花柄のワイドパンツで隠した美女が、迷いなく此方へと歩いて来る。
頭に付いた3対の小さな羽根で、彼女も精霊師なのだと知った。
と、同時に先ほど俺の身体を蝕んでいたのが毒であり、
彼女がそれを解いてくれたのだと言う事も。

「…有難う御座います。」

俺は女性に一歩近寄り、頭を下げた。

「うふン、どう致しまして♪」

彼女は含むような柔らかい声で笑ってそう答えた。
それから、その煌めく紫の瞳で俺を眺めると、微笑んで手招きする。
首を傾げながらも近寄ると、急に手首を掴まれた。間近でにっこりと美貌が微笑む。

「あたしはエンリケ。君は、祖龍デビューさん、だよね?」

此方をじっと見つめた後、合格、と呟いた彼女は、
俺をぐいぐい引っ張りながらそう名乗った。

「あの、はい…丁度先刻祖龍に到着したばかりで…榧と申します…」

たじろぎつつ女性に従い、此方も名乗る。彼女はウン、と頷いて、
俺を誘導しながら人の往来を上手に縫って歩く。

「よし、ここまでくれば大丈夫ね!」

手首から、美女の細い指が解けた。――少し残念だ。そんな俺には気付かずに、
くるり、と此方を振り向いて、女性はまたにこりと微笑った。

「ようこそ、祖龍のお城へ!」

何処か高貴で豪奢な印象の彼女は、けれど笑うと爛漫な少女のようで。

(可愛い人だな…あ、でも…この空気……誰かと、似てる――?)

ふと此処に来る途中に出会った美少女姉妹を思い出したる
醸し出す雰囲気がどことなく似ている気がする、明るく気丈で、優しい…。

「今はね、外に出たらダメよ。」

彼女――エンリケ嬢が言う。俺は首を傾げてなぜかと問うた。

「ココ、大きな都市でしょ?…時々、怨霊の集団に襲われるの。」

誰かの叫ぶ声が聞こえる。兵士の決意が士気を高めるように響いている。
こんなにも人が多いのは、その為なのだと初めて気付いた。
少し耳を傾ければ、遠い筈の城門から激戦の音が聞こえる。
あのままのんびり門を歩いていたら、俺は今頃どうなっていたか…
――考えるだけで背筋が凍る。

「助かりました、本当に…有難う御座います。」

俺は改めて礼を述べ、深く頭を下げた。
美女は首を横に振ってまた柔らかに微笑んだ。

「いいのいいの。…ホントはね、あたしも助かったんだよ?」

予測しない言葉に首を傾げる。――助かった…?
俺は何の役にも立っていない気がするのだが…。

「ふふーっ、実はね、お父さんから逃げてる最中だったの。
 独りだとすぐ見つかっちゃって…だからカモフラージュ…ね♪」

まさか男の子と2人なんて思わないもの、と快活に笑って彼女は言う。

「アリガト。」

――凄いな、と思った。
見ず知らずの人物を当然のように助ける事も、こうしてすんなりと…
気持ちの良い感謝の言葉を口に出来ると言う事も。――勇気のいる行動だ。
俺に同じ事が出来るかを考える。答えは………

(No、だな。――ホンランにすらまともに礼を言った事がないような気が…)

思わず苦笑した。――ごめん、ホンラン。いつも有難う。

「所でエンリケさん、何故お父上から逃げているのです?」

ふと疑問に思った事を尋ねる。エンリケ嬢は悪戯っ子のように笑って身を捩った。

「うふふ。――昨日、連絡ナシに夜遊びしちやって。」

嗚呼、女性のそういう行動は、男親として心配する所だろう。
況してやこんなに美しいご婦人だ、心配しない方が可笑しい。
男の俺にはない心配のされ方…でも、ないか?ふと師匠やホンランが脳裏を過る。

「それは逃げるより、きちんと謝った方が良いのでは…?」

斯く言う自分が素直に謝った事があるかと問われれば否だが…。
俺の言葉にえー、と不満の声を漏らす美女を見遣る。
彼女の父の心境を思うと、苦笑が零れた。

「若し一人で怒られるのが嫌なら、付き合いますよ?」

俺がいた所で何の足しにもならないが、助けて頂いた礼もある。
それに、凹む時は一人より二人の方が気楽なものだ…
と言うのは俺の勝手な自論だけれど。

「うーん、アリガトね。でも、大丈夫!追いかけっこも、楽しいものよ?」

エンリケ嬢は俺の申し出を聞いた後、考えるように首を傾げて唸り、
それから、――本当に、楽しそうに答えた。

「こら、エンリーっ!!!」

と、少し離れた場所から声がする。すこん、と辺りに良く響く男性の声だ。

「あ、イケナイっ!」

目の前で、美女が短く呟く。次の瞬間、パンと背中の翼を広げて舞い上がった。
何処かで見たような光景…嗚呼、昔の洪水前の世界の資料に載っていた――
女神の彫刻、――サモトラケのニケ…だったか。

「今度はもっとゆっくり遊ぼうね、榧ちゃん!」

じゃあね、と手を振って去る美女を、俺は惚けたままで見送った。

「エーンーリー!!!」

はっと我に帰る。太い声が近付いて来るのを感じて振り向いた。
――そこには……

(なっ……パンダ?!)

お腹のとっぷりと丸い、愛嬌のある2足歩行のパンダが…
ばたばたと此方に駈けて来る姿があった。
明らかに、先程まで俺と共にいた美女の名前を呼んでいる、と言う事は…?

「その青年!…エンリとどう言う関係だねっ!?」

パンダは俺の目の前で足を止めると、ビシィィっ――と此方を指さして訊く。
どうもこうもなくて初対面です…と思ったが言葉に詰まった。

「ええと、はじめまして、俺は榧と申しまして、旅の精霊師で――」

自分の事をしどろもどろと告げる。祖龍に到着したばかりだと言う事、
エンリケ嬢に助けられた事など、出来る限り手短に。彼はふむふむと頷いて、
一頻り話を聴いてくれた後、豪快に笑った。

「そうかそうかー、エンリが…あの子は、いい子だ。」

とても嬉しそうに。――彼は名を『たんたん』と言い、彼女の父なのだそうだ。

「今後もエンリと仲良くな!」

そして俺が何かを尋ねる間も与えないまま、片手を大きく振って知り去っていく。

(……何だったんだ………)

初めて足を踏み入れた祖龍の地で唐突に独りとなり、ただ呆然と立ち尽くす。
暫く思考を凍結していたが、少しの後気を取り直して交流の箱を取り出した。

「ホンラン、ホンラン…今、良いか?」

――ん??…やあ、榧。祖龍についたか〜?

相変わらず間延びした声が聞こえる。彼の質問に是と応え、
俺は自分の疑問だけを端的に述べた。

「先刻、綺麗な精霊師の女性に助けて貰ったら、その父親がパンダだったんだ。」

――…………………………………………………………。

「世の中では、普通の事なのか…?」

しん………………、と長い沈黙が流れる。程なくして、

――ま、まぁ…イロイロあるヨ。すぐ迎えに行くから、城北で待ってて。

何だか非常に苦しそうだが、色々あるならそうなのだろう。
俺は肯定の返事をしてた通信を切ると、地図を広げて城北を目指す。
街中には今も尚、猛々しい兵士の声が響いていた…。

Comment

2008.09.18 Thu 01:02  |  |ω・`)

ドウイタシマシテ…

  • #-
  • ホンラン
  • URL

2008.09.18 Thu 11:26  |  No title

たんたん、パパだったんだ…w

初めての祖龍&祖龍強襲、懐かしくなりました。
ええ、わけもわからず、死にまくりましたね。あれはレベル25の頃だったか…
クエがある事も知らず、二度目か三度目の時にフレに聞いてクエだけ受けるのでも大丈夫だと知りました。
まともにやれるようになったの50位からかなぁ…その頃は3〜6人PT組んでやって龍クエアイテム&経験値うまーっってやってましたw
最近はボス狙いPT入ってるか、トモイと那々帆ともうひとりの戦士娘にクエ受けさせるだけしてたりして、雑魚狩りとかしてないけど。
祖龍初めて来た時は迷子になりまくりだったなぁ…

  • #mQop/nM.
  • トモイ
  • URL
  • Edit

2008.09.18 Thu 13:45  |  |ωΦ)フフフ

うわぁ さすがだぁ。表現上手いなぁ〜>w<b
まさしくエンリケ嬢だぁ ウンウン。
たんたんが走ってるとこも目に浮かぶ〜b

あたしも祖城強襲では何度も巻き込まれたっけ…。
60超える頃まで高レベルにならないと参加できないんだろうって
思いこんでたし・・orz

  • #-
  • とぅる
  • URL

2008.09.18 Thu 21:31  |  o(*´ω`*)ポッ

感激です〜><
つい、読みふけってしまいました^^
とぅるに同感!!ホントウに表現うまいうまい^^b

祖龍の強襲イベはホントウに怖いよねww
あたしも最初の頃はひっかけたし・・・。
次、ひっかけたときも助けにいきますよ〜〜Σd(゚∀゚d)ィェイィィ!!!

  • #-
  • エンリケ
  • URL

2008.09.20 Sat 19:27  |  祖龍交々

た、、、楽しすぐるww
エンリとたんたんの追いかけっこも目に浮かぶような。。。w
ホンランさんの沈黙する顔も想像したりして(^m^)

祖龍強襲にはそれぞれ想いでがあるんですねぃ、うんうん。
デビューして間もない私も、英雄坂付近にクエがあるからと
城北を駆け抜けようとして・・・二桁死亡した記念すべき日でしt・・・
半べそでその日のクエは諦めたとゆーw
今となってはそんな記憶も若き日の良いおも・・・おも・・・・(p_q)ビェェェン

2008.09.21 Sun 18:16  |  皆様、書き込み有難う御座います。

いらっしゃいませ。
ようこそ、駄文の世界へ。

ホンラン
…コワイヨ………

トモイさん
たんたんとエンリケ姉さんは実は…今後の展開に乞うご期待!ww
ずっと、トモイさんって色々物知りで強くてカッコいい!と思っていたのですが・・・
最近気づきました…トモイさん、兄さんの次位に可愛い人ですよね…wwwwしかも努力家で。
――祖龍で迷子になるトモイさんの図…済みません、少し萌えました。www

とぅるさん
お褒め頂き有難う御座いますっ^^
文章で状況を想像して頂ける、風景を描いて頂けると言うのは本当に、物書き冥利に尽きます。
今後もご愛読お願い致します^^
とぅるさんも巻き込まれたんですね…俺も何度か巻き込まれてます。切ない。www

エンリケさん
気に入って頂けてなによりです、俺の文章で人様のキャラを壊さないか心配で…
そのようなお言葉を頂けると大変うれしいと同時に安心します。ww
助けに来ていただけるとは心強い!なら遠慮なくひっかけて…って…
いや、ひっかけないように気を付けます…www

れもんさん
いらっしゃいませ^^楽しんで頂けたようでなによりです!
ホンランの心の声も書いたら屹度面白いのですが、
それを書くともうギャグ小説にしかならないので自重…ww
巻き込まれイベントは屹度完美の仕様なのですよ!みんな自然と受けているクエの様な物で…www
良い思い出です、多分…さあ、涙を拭いて。www

(編集・削除用)
管理者にだけ表示を許可

Trackback

URL
http://kaya0629.blog25.fc2.com/tb.php/87-bf74f19d
この記事にトラックバック(FC2Blog User)

プロフィール

榧

Author:榧
Server:ベテルギウス
Job:精霊師
Guild:BLOOM
Character:うさぎ至上主義。

カレンダー

06 | 2009/07 | 08
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

いらっしゃいませ。

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

QRコード

QRコード
Copyright © 榧